名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)5156号 判決 2000年3月17日
本訴原告
安田火災海上保険株式会社
被告
田中健之
反訴原告
田中憲
被告
糟井寿麻子
主文
一 本訴被告は、本訴原告に対し、金二一万四九二〇円及びこれに対する平成一一年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 本訴原告のその余の請求を棄却する。
三 反訴被告は、反訴原告に対し、金八万五四〇〇円及びこれに対する平成一〇年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 反訴原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを一〇分し、その九を本訴被告及び反訴原告の負担とし、その余は本訴原告及び反訴被告の負担とする。
六 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
本訴被告は、本訴原告に対し、金二三万八八〇〇円及びこれに対する平成一一年一月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
反訴被告は、反訴原告に対し、金一一〇万六〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、本訴被告と反訴被告との間の交通事故について、本訴原告が、本訴被告に対して、本訴原告が車両保険として訴外糟井司郎に支払った保険金の求償(遅延損害金につき訴状送達の日(平成一一年一月一三日)の翌日から起算)を求めた事案(本訴)と、反訴原告が、反訴被告に対して、民法七〇九条に基づいて、損害の賠償(遅延損害金につき不法行為の日(平成一〇年二月一九日)から起算)を請求した事案(反訴)である。
一 争いのない事実又は括弧内の証拠等により容易に認定することができる事実
1 本件事故の発生
平成一〇年一一月一九日午後三時三五分ころ、愛知県小牧市大字本庄二五九七番地四三において、反訴被告が運転する小型乗用自動車(尾張小牧五九ま三五四七、以下「原告車」という。)と、本訴被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)とが衝突した(争いがない。)。
2 原告車及び被告車の所有
反訴被告は、原告車の所有者である(甲一〇号証、弁論の全趣旨)。反訴原告は被告車の所有者である(争いがない。)。
3 原告車の車両保険
訴外糟井司郎は、本訴原告との間で、平成一〇年三月二二日、反訴原告を被保険者、原告車を被保険自動車、保険期間を同日から平成一一年三月二二日までとして、衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、洪水、高潮その他偶然な事故によって被保険自動車に生じた損害を本訴原告が填補する旨の車両条項を含む自家用自動車総合保険契約(SAP)を締結した(甲四号証)。
4 原告車の修理費用と車両保険の支払
原告車の本件事故による損傷の修理には二三万八八〇〇円を要した(甲二号証)。本訴原告は、訴外糟井司郎に対し、平成一〇年一一月三〇日、3の契約に基づいて、保険金二三万八八〇〇円を支払った(甲五号証)。
二 争点
1 本件事故の態様と、過失相殺
2 反訴原告の損害額
(反訴原告の主張)
反訴原告は、本件事故により、以下の損害を被った。
(一) 被告車の修理費用 七三万五〇〇〇円
(二) 代車料 一二万六〇〇〇円
(三) 評価損 一五万円
第三争点に対する判断
一 争点1について
1 証拠(甲一号証から三号証まで、六号証、七号証、九号証、一〇号証、乙一号証から三号証まで、九号証、一二号証、一三号証、反訴被告本人、本訴被告本人、反訴原告本人)によれば、前記争いのない事実等に加えて、以下の事実が認められる。
本件事故の現場は、北東(郷浦方面)から南西(小松寺団地内方面)に延びる中心線の引かれていない対面通行の道路(以下「本件道路」という。)上であり、本件道路が北東から南西に向かって左に大きく湾曲しているため、本件道路の対向方向の見通しは不良である。本件道路の車道の幅員は、約三・四五メートルないし約三・五メートルであり、本件道路の東側にはガードレールによって区分された歩道が設けられている。また、本件道路の西側には約〇・五メートルないし約三・一メートルの路肩が設けられており、車道部分と路肩部分との間には車道外側線が引かれている。本件事故現場のやや北方は、県道小牧明知線から延びる道路(幅員約四・八メートル)とのT字型交差点(以下「現場付近交差点」という。)になっており、本件道路は、現場付近交差点の北方では幅員約四・八メートルである。本件道路の現場付近交差点の北方手前には横断歩道が設けられている。本件事故現場のやや南方には、十字型交差点がある。本件道路の本件事故現場付近については、最高速度が三〇キロメートル毎時に制限されており、駐車禁止の規制がなされている。
原告車は、幅約一・六〇メートル、高さ約一・三八メートル、長さ約三・七四メートルの小型自動車(トヨタスターレット)であり、被告車は、幅約一・八二メートル、高さ約一・四〇メートル、長さ約四・九九メートルの普通自動車(トヨタセルシオ)である。原告車、被告車のいずれもドアミラー車であり、対向して走行する両車が安全にすれ違うためには、双方の車幅の合計約三・四二メートルを少なくとも一メートル以上上回る程度(約四・五メートル)の車道の幅員が必要である(したがって、本件道路の路肩の狭い部分で原告車と被告車とがすれ違うことはきわめて困難であり、対向する車両は、いずれかの車両が、本件事故現場の北方の現場付近交差点付近で待機するか、あるいは、本件事故現場のやや南方の西側路肩の広い部分付近で待機することが必要である。)。
反訴被告は、原告車を運転し、本件道路を北東から南西に向かって時速約三〇キロメートルで走行していた。反訴被告は、現場付近交差点手前の横断歩道の手前で一旦停止し、本件事故現場付近を走行しあるいは停止している車両がないことを確認した後、被告車を発進させて時速約一〇ないし一五キロメートルの速度で東側ガードレールぎりぎりによって走行していたところ、現場付近交差点を越えた付近で、対向して走行してくる被告車に気づき、急ブレーキをかけたものの、約三・七メートル進行した地点で原告車の右前部と被告車の右前部とが衝突し、本件事故が発生した。
他方、本訴被告は、被告車を運転し、本件道路を南西から北東に向かって走行していた。本件事故現場付近に至った際、ポケットに入れてあった携帯電話が鳴ったため、被告車を左側の車道外側線に寄せたものの、原告車が通行する十分な余地がなかったため、原告車の右前部と被告車の右前部とが衝突し、本件事故が発生した。
本件事故後、本訴被告は、たまたま本件道路を車で通りかかった友人と共に反訴被告を怒鳴りつけるなどし、反訴被告に全面的に非があることを認める旨の謝罪文を書かせた。
2 本訴被告及び反訴原告は、本件事故は原告車が通行するのに十分な余地を残して道路左側に寄って駐車していた被告車に原告車が衝突したものであり、前方注視を怠った反訴被告に一方的な過失がある旨主張し、証拠(乙三号証、九号証、一二号証、一三号証、本訴被告本人、反訴原告本人)中にはこれに沿う部分もないではない。
しかしながら被告車が停止していた位置に関する本訴被告の供述は、原告車の通行に十分な余地があったか否かについて、右余地がなかったとする証拠(乙二号証、一二号証)とあったとする証拠(本訴被告本人)との間に矛盾があるものである。そして、証拠(本訴被告本人)については、携帯電話が本件事故現場南側の交差点の手前で鳴り始めていながらなぜ十分な余地のある路肩部分に被告車を停止させなかったのか不合理であるし、前記本件事故後に本訴被告がとった対応などに照らすと、信用することができないといわざるを得ない。また、証拠(反訴原告本人)は、右のような本訴被告からの伝聞に基づくものであるから容易に信用することはできない。そうしてみると、前記本訴被告及び反訴原告の主張に沿う部分は信用することができず、他に1の認定を覆すに足りる証拠もない。
本訴被告及び反訴原告は、反訴被告が原告車を現場付近交差点手前の横断歩道の手前で一時停止させたのは不自然であるかの如く主張するが、前記認定のような本件事故現場付近の状況からすると、反訴被告が、対向車の有無等の確認のため、現場付近交差点を越える前に原告車を停止させて本件事故現場付近の本件道路の安全を確認することも不自然なことではない。そして、反訴被告の供述は、当初から一貫しており十分に信用できるものである。
3 1に認定した事実によれば、本件事故は、被告車を運転中かかってきた携帯電話に気をとられて十分な余地を取ることなく被告車を走行させた本訴被告の過失にその多くの原因があると評価すべきである。
しかしながら、他方反訴被告も、見通しのきかない道路の曲がり角付近を走行していたのであるから、被告車を発見したら直ちに停止できるよう徐行すべきであったし、より先方の確認ができるよう、前記横断歩道付近ではなくもっと本件事故現場に近い地点で本件事故現場付近の本件道路の安全を確認すべきであったということができる。
以上によれば、本件事故の発生についての本訴被告と反訴被告の過失の割合は、本訴被告九、反訴被告一と評価するのが相当である。
4 よって、本訴被告は、本訴原告が支払った前記保険金二三万八八〇〇円から右過失割合に応じてその一〇パーセントを減じた二一万四九二〇円を、本訴原告に対して支払うべき責任がある。
二 争点2について
1 反訴原告の損害
(一) 修理費用 七三万五〇〇〇円
証拠(乙六号証、一一号証、反訴原告本人)により、被告車の修理費用は消費税を含めて七三万五〇〇〇円であると認めることができる。
本訴原告及び反訴被告は、右証拠によれば本訴答弁書提出時点で既に修理費用等が確定していたことになるのに、右答弁書において推定七〇万円と主張していたことからすると右証拠は信用できないと主張するが、右答弁書の記載は、本訴原告の認める額を単に引き写した代理人の怠慢と見るのが相当である。
(二) 代車費用 四万二〇〇〇円
反訴原告は、被告車の代車費用として三〇日分の合計一二万六〇〇〇円(一日あたり四二〇〇円(消費税を含む。)を請求するが、証拠(甲八号証、本訴原告本人、反訴原告本人)によれば、被告車の修理に要する期間は約一〇日間であるから、一日四二〇〇円として、合計四万二〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができる。
(三) 評価損 零円
反訴原告は、本件事故による被告車の評価損として一五万円を請求し、これに沿う証拠(乙七号証、八号証)を提出するが、被告車について修理後も何らかの欠陥が残存しているとは認められない。
(四) 合計 七七万七〇〇〇円
(五) 右合計額から前記の過失割合に応じてその九〇パーセントを減じると、反訴被告が賠償すべき反訴原告の損害は七万七七〇〇円である。
三 反訴原告は、本件訴訟追行のための弁護士費用として、一五万円を請求するが、以上によれば本件事故による損害として認められるのは七七〇〇円が相当である。
よって、主文のとおり判決する(なお、反訴原告の求める仮執行宣言については、その認容金額に照らし必要がないからこれを付さないこととする。)。
(裁判官 榊原信次)